2011年10月21日金曜日

実りの秋に考えること

友人のご両親が営む余市の果樹園を訪ねました。今はぶどうの収穫が山場です。今年はたまたま身体を壊して収穫の作業ができないと伺い、みなで駆けつけました。 たわわになるぶどうは美しく、その風景を見ているだけで何だか豊かな気持ちになります。野菜や穀類の畑とは違った果樹園ならではのロマンティックな景観にちょっと感激しました。


今日の作業はワイナリー用の赤ぶどうの収穫です。幸い、寒くもなく暑くもなく、ちょうどよい気温。椅子に腰かけてのんびり作業しながら鼻歌も混じり・・・これはいいや、と思ったのは最初の1時間ほど。カビや腐りの入った部分を鋏で取り除く作業が結構手間で、思ったよりもはかどりません。そのうち「え~、これ、全然終わらないじゃん」「この広さを老夫婦二人で維持しているなんて」とため息が。聞けば、今週中に出荷しないと農協に引き取ってもらえないとか。時間が経つほど傷みも進むので、いずれにしても後1週間の勝負だろうということでした。


農業はいかに自然に合わせて働くかが肝です。仮に出荷や収益を度外視しても、作業に適期はつきもの。どんなに丹精込めて作っても、どんなにたくさん実っても、ベストなタイミングで収穫しなければ、それまでの努力や成果も水の泡にしてしまいます。だから、雨が降ろうが風が吹こうが必要な作業を休むわけにはいきません。
「こんなに立派に実っているのに取り残すなんてもったいない・・・」「農業をやりたい人はたくさんいるから声をかければ」みなさん、そうおっしゃいます。でも、天気や作物の状況を睨みながらたった数日から1~2週間の収穫期に十分な人を集める、またその人たちに適切に作業をしてもらう環境を整えるのも容易なことではありません。それに青空の下でリフレッシュ♪なんて日には「農業って健康的でいいわね」ということになるでしょうが、風雨に打たれて長時間その作業をする人が一体どのくらいいるでしょう。私はワインを飲まないので製造事情にも詳しくはありませんが、欧米の美味しいワインも、ひょっとしたら劣悪な環境で働く労働者に支えられているのでは・・・と思わず疑念を抱いてしまいました。まして有機無農薬栽培は、ますます手間がかかります。健康志向の消費者は少々高値でもお金を出すかもしれませんが、それでも重労働を変えることはできません。かつて英国に住んでいたころ有名な大規模オーガニック農園を訪ね、300人の季節労働者の半数以上がポーランドからの移民だと知って驚きました。一方、テレビのインタビューでは「最低時給で農業をするくらいなら生活保護をもらうよ」とイギリスの高校生。はたして日本の若者はどうでしょうか。


私たちのやっている農体験はあくまでも自分たちが食べることが目的で、現金を得るためではありません。農作業を通じて実にいろいろなことを学び、自分を鍛えることができると考えています。そして、作物栽培がなかなかお金にはならない重労働に支えられているという事実を知ることで、食べ物を安く買いたたこうなんて思わなくなるなら、それだけでも重要な体験だと思っています。プロから見たら遊びだと笑われるかもしれませんが、種を撒き大切に作物を育てて実ったときの嬉しさや自然の中で働くことの喜びは、たとえ経済的には無意味でも何事にも代えがたいものです。相変わらず巷では、口先三寸で何も生産しない仕事が大金を稼ぐ仕組みになっていますが、果たしてそんな社会に未来があるでしょうか。自然に感謝しながら汗を流し、小さな種から実りを生む労働の価値を分かち合うことのできる人びとこそが、よい社会を創ると信じます。

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